N I S H I N E L U R E W O R K S
トゥルーライフスイムベイト誕生秘話
文:ルアービルダー 西根博司
『プロローグ』
”ヒロシ、アミスタッドで勝てるスイムベイトが欲しいんだ。“
イッシュ・モンローはそう言うと、また黙々とスイムベイトを投げ始めました。
2006年秋、カリフォルニアデルタ。B.A.S.S.エリートプロ、イッシュ・モンローのレンジャーZ20上での一コマです。その時のイッシュのリクエストは、アミスタッドのメインベイトフィッシュになっている『ティラピア』のスイムベイトが欲しいというものでした。
イッシュ・モンロー(2006.9撮影)
この前年、2005年に開幕したB.A.S.Sエリートシリーズ。その記念すべきファーストトーナメントレイクとなったのがこのレイク・アミスタッド。そして、その記念すべきアミスタッド戦を優勝で飾ったのがイッシュ・モンロー。
そんな事もあって、レイク・アミスタッドはイッシュにとって非常に思い入れの深い湖であり、『アミスタッドで勝てるスイムベイト』は、イッシュにとって、本当の意味で心の底から欲しいルアーとのこと。
このスイムベイトプロジェクトは当初ビジネスとは全く関係なく、たった一つ、『イッシュ・モンローがアミスタッドで勝つ』ことを目的としてスタートしたのでした。
プロジェクトの参加者はイッシュと僕、そしてイッシュとの架け橋となってくれたカリフォルニアの友人アルトン(カリフォルニアのローカルプロ)の3人。
この日、カリフォルニアデルタに浮く黒塗りのレンジャーZ20のデッキ上で交わされた会話を僕は生涯忘れる事ができないでしょう。
それは、トゥルーライフスイムベイトの開発が極秘で始まった瞬間でした。
『アミスタッドで勝つために』
そんな命題を背負って始まったスイムベイトプロジェクト。一体全体、何通のメールや電話を交わしたのか、一体幾つのプロトタイプを作ったのか・・・・・。膨大な時間、そして膨大なトライ&エラーが1年以上に渡って続きました。
正直な話ですが、もし今までどのルアーの開発が一番大変だったか?と尋ねられたとするならば、僕は迷うことなく『トゥルーライフスイムベイト』、シマノ社の『デッドリースパイラル』、そして『トリプルインパクトジョイント』の3種を挙げると思います。
作っては意見を交わし、様々な試行錯誤を続け、最初のモデルがようやく形になったころには、既に1年以上の歳月が過ぎ去っていました。
最初に完成に近づいたのは、6インチのティラピア型スイムベイト。
ボディー形式は3ジョイント、4ピースボディー。
一般的な中空プラスチックではなく、このスイムベイトの為に開発した特殊プラスチックのソリッドボディー。
そして、内蔵ウェイトを調整する事によって、沈降スピードを調節できるシステム。
そんなスイムベイトに仕上がっていました。
このルアーはイッシュ・モンローのスポンサーでもあるトゥルータングステン社の製品として世の中に出る事になり、イッシュを震源地として多くのプロがその存在を知る事となります。
マイク・アイコネリ、ピーター・スリベロス、デニー・ブラウアー、グレッグ・ハックニー等のトゥルータングステン社契約プロはもちろん、スポンサードに関係なく様々なプロから開発中のスイムベイトを手に入れたいとトゥルータングステン社に連絡があったそうです(その中にはミシガン州出身の最強バスプロも含まれる)。
なお、このルアーは、開発後期にテイルを長くした方がアクションの安定性が増す事が判明したため、少し長さを延長し、最終的には6.5インチくらいになりました(公式表記上は「7インチ」となっています)。
2008年春に発売されたティラピア7インチは、ファルコンレイク戦でマイク・アイコネリのキーベイトとなりアイコネリは11位入賞。(その時の話は コチラ )
その後のアミスタッド戦ではトゥルーライフスイムベイトを使った若手プロが2位入賞!!(アングラーはアーカンソー出身のクラーク・リーヘム)
このトーナメントの様子がESPNのTVショーやネットで配信され、トゥルーライフスイムベイトは全米で大きな話題となりました。
そして、このスイムベイトの発案者であるイッシュ・モンローはこのアミスタッド戦でティラピア(7インチ)のみを投げ続けて初日4位スタート!!(その時の話は コチラ )しかし2日目、寒冷前線が通過した関係でスイムベイトバイトが激減し、トゥルーライフを投げ通したイッシュは最終14位にてこのトーナメントをフィニッシュしました(その時の話は コチラ )
トーナメント終了後にイッシュに聞いてみたところ、ファルコンレイク戦も含めて、このトーナメントに入るまでの段階で50匹以上の5パウンダー(50cmアップ)をこのトゥルーライフスイムベイトで釣り上げていたらしく、アミスタッド戦はトゥルーライフをメインパターンにする事に決めていたそうです。
イッシュのリクエストであった『勝てるスイムベイト』。カリフォルニアのローカルベイトであったスイムベイトが、メジャートーナメントのウィニングルアーになれる可能性を秘めているということ。
イッシュは最後までトゥルーライフスイムベイトを信じ、大切な舞台で投げ続けてくれました。
6畳足らずの地下工房でコツコツと作ったこのスイムベイトが、全米中の話題になっているという話を聞いた時、なにやら熱いモノが込み上げてきたのを今でも思い出します。
『トラウトモデル』
その後、このトゥルーライフスイムベイトの開発には新たなキーパーソンが加わります。
その人物とはカリフォルニアの『マット・ニューマン』。
カリフォルニアで『スイムベイトキング』との異名を持つ男です。
サザンカリフォルニアの超有名ビッグバスレイク『レイク・カシータス』に通うコアなアングラーの中で、この男の名前を知らないアングラーはまず居ないのではないかと言えるほどのスイムベイトの使い手。
そのマット・ニューマンが加わって開発が進められたのがトラウトモデルです。まずはマット・ニューマンの第一希望である9インチトラウトが開発され、その後8インチモデルが追加開発されました。
このトラウトモデルを開発する時にマット・ニューマンが最も拘っていたのは『ロールアクションゼロのスイムアクション』。マットいわく、本物の魚にロールして泳ぐ魚は居ないので、スイムベイトのロールもゼロにして欲しいと。
これがルアーデザインを行う上で最大のハードルになりました。英語で言う所のSide to Side Wobble・・・これをゼロにして欲しいと・・・・。
| マット・ニューマン。 |
フラットサイド系のボディーを持つティラピアやブルーギルは、ボディー側面に水圧を受けるため、この問題は発生しなかったのですが、ボディーが細い&丸い断面を持つトラウトボディーは比較的ロールしやすい形状。しかも3ジョイントボディーでロールを完全に抑えるなんて殆ど不可能に近い話。さらに、マットの要求は、全スピード域での『ロールカット』と『スイムアクションの追従性』。
作る側の人間からしてみたら“何考えとるんじゃ、オマエ!”って言いたくなるぐらいの無茶苦茶な要求です。(笑)
何故ならばロールアクションはルアーのアクションの原動力の一つになっており、これを無くせばアクションのレスポンスが落ちるのは当たり前。しかしこの男は更にアクションレスポンスを上げろと言う訳ですから、はっきり言って正気の沙汰ではありません。
そんな訳ですから、作っても作ってもマットの答えは“ノー!!”。しまいには開発陣の間で“パティキュラー・マット(気難し屋のマット)”と呼ばれる始末。開発のやり取りの中で一触即発状態になった事は1度や2度ならずでした。
が、マットがそこまでノーロールとアクションレスポンスにこだわったのには大きな理由があるのです。
それはマット・ニューマン独特の釣りスタイルにも起因するのですが、通常では棒引きで使われる事が多いスイムベイトに、あえて様々なアクションを付けて使っていたのです。
超デッドスローで泳がせていたと思ったら、急にガァーーッてスピードアップしてみたり、スイムベイトの常識には無いようなスピードの緩急にプラスしてストップ&ゴーを掛けてみたりと、とにかく変幻自在なスイムベイトテクニック。
だから彼にとって、ある特定のスピードでしか泳がないスイムベイトは全く意味のないものなのです。
だから、彼は最後までそれを譲らなかった。
だから、こちらも最後まで諦めないで作った。
そんな思いがこのトラウトモデルには込められています。
『ロールカットへの挑戦』
実際問題の話ですが、このロールアクションを抑えるのは非常に困難を極め、最終的には腹ビレと尻ビレを付け、キール効果を持たせることによって、ほぼ80%ぐらいのロールを抑え込む事に成功しました。
腹ビレと尻ビレ。
このヒレの効果は絶大でロールは劇的に収まり、自然の生物の形って本当に理に適っているんだなぁ〜って心底感動しました。なので、トゥルーライフの腹ビレと尻ビレは単にリアルを追求したものではなく、必然の産物。見た目だけのリアルさを追ったものとは違い、絶対に必要不可欠なものです。
そしてヒレでは抑えられなかった残りの20%。
これは、ボディーの比重調整で限界ギリギリまでロールを抑え込むバランスセッティングを模索しました。とは言っても、このトゥルーライフは3ジョイント4ピースボディーな訳ですから、それぞれのボディーパーツの比重が変わったり、ジョイントのクリアランスが少し変わるだけで大きくアクションを崩してしまいます。
開発の過程では、少しずつ比重を変えたパーツを作り、それぞれをパズルのように組み合わせて一つ一つ動きのバランスを確かめ、ベストの組み合わせを見つけ出していきました。
ボツになった試作ボディーは数知れず。
エンドレスな作業に疲れ果てる毎日。
このルアーの場合は、アクションの要とも言うべき内蔵ウェイトを調整できるシステムを持つので、バランスのセットアップは更に困難を極めました。
そして最終的には、ロールを完全にゼロにする事はできませんでしたが、ほぼ95%ぐらいまでロールアクションをカットする事に成功しました。
そんな経緯を経て誕生したのがトラウトモデルです。
『4インチシャッドデビュー!!』
そして、2008年秋には待望の4インチシャッドが誕生し、現在アメリカ本土でブレイク中です。
ビッグベイトがまだまだ受け入れられていない東海岸でもこのスモールサイズスイムベイトは魅力的なのでしょう(おそらく日本でも登場の機会は多いはず)。そんな事もあって、現在アメリカでは4インチクラスのシャッド型スイムベイトが大ブームで、各社から雨後のタケノコのように次々と同じようなスイムベイトが発表されています。
このトゥルーライフシャッド4インチはそんな超激戦区の真っ只中に産み落とされた、ある意味『鬼っ子』のようなルアー。もちろん、この4インチシャッドの開発はブームが始まる遥か以前から始めていたのですが、時代が求めたのか、それとも時代を作ったのか・・・・・・真相は僕には分かりませんが、トゥルーライフシャッド4インチはそんな超激戦区の中にあって、このクラス唯一の2フック仕様と言う事もあり非常に好評価を頂いています。
その中でも最もビックリした出来事は、現在バスプロショップスに並んでいる4インチクラスのシャッド型スイムベイトはトゥルーライフが独占しているとの事です。
この4インチシャッドの最大の得意技は、『生命観あふれる泳ぎ』にプラスして『超高速安定性能』。通常のウェイクベイトではリトリーブ不可能な超高速スピードでのウェイキングを可能にし、クランクベイト感覚で手軽に使えるスモールスイムベイトに仕上がっています。
『カリフォルニアンシークレット』
最後になりましたがトゥルーライフスイムベイトについて、ある一つの重大なシークレットを明かしたいと思います。
それが、カリフォルニアンシークレットとも言うべき、独特なスイムベイトテクニック。
そのシークレットとは、何を隠そう『ストップモーション時の回頭ヒラウチアクション』!!
トゥルーライフスイムベイトに急激なストップモーションを加えると、慣性でクルッと180度反転するのですが、カリフォルニアのハードコアなスイムベイター達にとってはこのアクションがとても重要なのだそうです。
そして、まさに、このアクションこそが、トゥルーライフの最大の得意技。ナチュラルに、かつ反転時にフロントフックがラインを拾ってしまわないバランスに仕上げてあります。
皆さんもご経験があると思うのですが、スイムベイトにフォローしてきたバスってなかなかバイトまで至らない事が殆どですよね。それは日本に限らずカリフォルニアでも同じ事なのですが、この回頭ヒラウチアクションでリアクションバイトを取るテクニックが、凄く重要なキーになる事があるそうです。
バスからしてみれば、ベイトフィッシュの死角となる斜め後方から追いかけていたのに、目の前のベイトフィッシュが突然自分に向かって反転してくる訳ですから、思わずリアクションで食ってしまうという事なのでしょう。
何時でもこのアクションが効果的な訳ではないと思いますが、どうしてもバイトまで持ち込めない時にぜひ試してみて下さい。
また、内蔵ウェイトを調節し、ルアーの沈降スピードを調節することが可能ですので、その日の状況に合わせてフィールドでセッティングを換えて頂くことが可能です。
これは言葉を換えれば、ウェイキング〜ファーストシンキングまで一つのスイムベイトで対応できるということで、オカッパリ等で多数のスイムベイトを持ち運べない方にとっては大きなメリットになると思います。
ウェイトの調整方法は簡単で、ジョイントピンをプライヤーで引き抜くとジョイントが外れてウェイトチャンバーが露出しますので、その中に入っているタングステンボールの個数を変えて下さい。これで、簡単に浮力を調節することができます(より細かいセッティングをすればサスペンドさせる事も可能です)。
ただし、ウェイト交換の際はフックに十分気をつけて頂く事と、ジョイントピンやタングステンボールなどのパーツを無くさないようにご注意下さいね。
『そしてビッグバスへ・・・』
スイムベイトの本場であるカリフォルニアの最高のスイムベイトシーズンは、何を隠そうプリスポーン。
そう、これからの季節・・・・・。
これからの季節がカリフォルニアのスイムベイター達の本気シーズンなんです。
カリフォルニアのビッグバスフィールドでは、この時期、10ポンドオーバーのスーパービッグフィッシュを求めて、スイムベイター達が熱い釣りを繰り広げています。
琵琶湖でプリスポーンと言えば2月下旬〜4月でしょうか。その頃の琵琶湖といえば、大型ミノーの中層ただ巻きがメインパターンの一つと思いますが、カリフォルニアではまさにその部分を埋めるのが春のスイムベイトフィッシングなのです。
ちなみにカリフォルニアでは、晩秋、水温が11度ぐらいまで落ちた頃がもう一つのモンスターバスシーズンになっています。
数は釣れないけど、来たらデカイ!
この春、モンスターバスのみを求めて、そんなハードコアな釣りに挑戦してみられては如何ですか?
2009年2月 カナダより
(2009.2.14掲載)
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